ここのオーナー(皆に“ボス”と呼ばれている)は、本当に気さくで親切でおおらかで、かみさんに頭の上がらない素敵なおっさんでした。
外見は、ちょいとはげていて、おなかが出ていて、無精ヒゲで・・・と、とても安心できる雰囲気でした。
ここサイゴンでは、ボスといろいろな事を話し、ボスが忙しくなると、ボスの代わりに子供たちの誰かが相手してくれて、私をどこかに遊びに連れて行ってくれるという毎日でした。
そんなある日、「お前はいつも 笑顔 でウチら家族を楽しませてくれるから、今日の宿代はいらない。」と言ってくれたのです。そしてその夜は、ご馳走までしてくれました。
そして翌日昼、初めて歩く通りで「おしん」という日本料理屋を見つけました。
ここのお店の前で、ガラスケースに入っている料理のサンプル品を、生唾を飲みながらじっくり観ていると、
「いらっしゃい!! おーっ日本人かい? こりゃまたすっごい笑顔だね(笑) 最近日本食食べてる? 食べてないなら寄っていってよ。日本から取り寄せているものばかりだから美味しいよ!」
バックパッカー(旅人)にとって、どうしても日本食は高く感じてしまう。
お金を使いたくなかった僕は、朝食も抜いていてお腹ペコペコだったにも関わらず、「いやー、屋台で今まさに昼飯食って来ちゃって・・・。明日にでも食べに来ますよ。おじさんとも話したいし。」
「屋台だったら、まだ食べれるでしょ。お金いいから、白米と味噌汁食べていきなよ!!」
「うおおおおおーっ(絶叫) 本当ですか!? それじゃ、遠慮なく!!(超満面の笑み)」
そして大将(店主)は、ご飯と味噌汁とおしんこのセットを定食用のお盆に乗せて、持ってきてくれました。
それを、1分ほどで全部食べ終わった僕を観て、笑いながら「おかわり持ってくるから、ちょっと待ってね!」と、再度ご飯と味噌汁とおしんこを持ってきてくれました。
「(きっと飯食ってないの、バレてるな)」と思いながら、今度は3分位かけて、食べ終りました。物凄く美味しかったし、満腹になったし…と、幸せいっぱいになっていると大将が「君がとろけそうな 笑顔 でサンプル見ているから、もうおかしくなっちゃって、思わず声をかけちゃったよ・・・(笑)」
大将に何度もお礼を言い、「何でオレにこんな事までやってくれるのだろう?」「自分にできる恩返しってなんだろう?」と考えながら宿に向かいました。
その晩ずーっと考えていた事は、「アンダオの親父さんといい、おしんの親父さんといい、 『何で売り物をただでくれるんだ?』 」という事。
一応の結論として、無理矢理まとめると「笑顔でいるといい事ある。」「この世には、売り物をタダでくれる奇特な方がいて、自分もそういう人間になる。」という事(!?)でした。
それから10ヵ月間、相変わらず旅を続けていました。
ただ、大きく違うのは「笑顔でいる」「損得なくあげてしまうようなあり方でいる」ということを、強く意識していました。
だから、最初の2ヶ月と違い、どこの国へ行っても「スマイル・マン」と呼ばれ、食事をご馳走になり、お家に泊めてもらえる僕がいました。
そして1年ちょっとの旅から戻ってきた時、自分でも本当に、「何が起きても大丈夫!」という根拠のない自信と 安心感 でいっぱいでした。
(それと共に、腹からくるエネルギーでいっぱいでした。そうそれは僕が一番欲しがっていた、「生命力」が爆発している状態でした。)
そして、とにかくあの2人の親父さんや、その他の自分に与え続けてくれた人達に、恩返しできるような人間であろう。他の人にも与え続けられる人間であろう。感謝と 笑顔 で接しながら…。
自分の生き方が一瞬にして変わった、「アンダオ・ゲストハウス」での、あの夜をいつまでも覚えているように。
そしてその2人の親父さんへの感謝と敬意を込め、自ら勝手に アンダオ と、名乗る事にしました。(そしてそれがそのまま屋号となりました。)